経歴
高校卒業後、白鷗大学へ進学。教員免許取得のために進学をしたものの、家業の幼稚園経営の後継者になることは明確にイメージしていなかった。当時好きだったファッションをもっと学びたいという気持ちから、大学4年生の時に都内のバンタンデザイン研究所へ1年間ダブルスクールをする。スクール内で優秀な成績を収め、その後2年間アパレル店で勤務。2年目に店舗異動の話を持ち掛けられたことが、自分の仕事と家業を見つめ直すきっかけとなる。家業を継承することを決意し、ゆたか幼稚園に教諭として入職。クラス担任、事務職、副園長の経験を経て、令和4年度から園長として就任。
会社の主な業務内容は何ですか?
ゆたか幼稚園は1967年創業で、今年で56年になります。現在までに約7000人の卒園児を送り出してきました。2歳児からの未就園児教室、2歳児・満3歳児保育など、小学校入学前の子供の教育を行っています。スタッフ数は理事長、園長の私、幼稚園教諭免許所有者が19名。そのほか事務、保育補助、運転手さんや講師を合わせて全体で28名の構成になっています。 当園では「こころも からだも ゆたかに」をモットーに、人としての基本である「あたりまえのことがあたりまえにできる」大切さを学びます。 子どもたちが「自分で考え 行動し 自分で解決できる力」を育むことを目的としており、その目的を達成するために「がんばるこども」「思いやりのある子ども」「あいさつのできる子ども」を教育目標として掲げています。 また「子も親も 教職員も皆で楽しむ幼稚園づくり みんなで育てる子どもたち」をテーマとして、園に関わる全員が園づくりに参加できるような環境を作り、常に変化・成長し続けられる園を目指しています。
コロナ禍になってから大変だったこと、変わったことなどありますか?
コロナ禍になってもう3年ぐらい経ちますが、当初は園として判断に悩むことが多かったです。教育の時間と質の確保という部分で苦戦しましたね。幼い子ども達を預かって集団生活を行っている以上、感染リスクをゼロにするということはかなり難しい。もちろんマスクの着用、手指消毒、換気、三密を避ける、検温などできることは充分実施してきました。 ですが、コロナ禍だからといって悪いことばかりでもありませんでした。幼稚園としてはこれまでの取り組み、行事も含めて全体を見直すいい機会になったかなと個人的には思っています。幼稚園というのは年間でやることが決まっていて、取り組み方も固定されていた部分がありました。コロナ禍になったからこそ従来のやり方から新しいやり方に変えられたことも多いので、そういった意味ではプラスになったかなと思います。 あとはICTシステムの導入。保育支援アプリを活用することで、保護者が日々の連絡を簡単に行えるようになりました。子どもたちと離れて暮らしている祖父母の皆さんのためにも、園での日々の生活が見えるようにホームページやブログなどで情報発信をしています。最近ではインスタも始めましたし、コロナ禍になったことでこういった情報発信がより一層強みになっているように感じています。
学生時代はどのように過ごされていましたか?
幼稚園から中学生まではずっとサッカーをしていました。通っていた小中学校のサッカー部は常に大会で優勝争いをしているようなチームで、とにかく練習がハードでした。高校でサッカー強豪校に進学した友人が「高校より中学の練習のほうがつらかった」と言うくらい。そんなハードな練習の中、サッカーを辞めずに続けられたことは今の自分の力になっていると感じています。当時、母は送迎やお茶当番をしてくれましたし、父は審判の免許を取得して陰ながら支えてくれました。しかし両親はそれに恩を着せたり私に過度な期待をかけることもなく伸び伸びと育ててくれて、今となっては親の偉大さに頭が下がる思いです。 サッカーのほかにもサバイバルゲーム、ボウリング、カラオケ、スノーボードやファッションが好きでしたね。サバイバルゲームに関しては親の承諾を得て大人のチームに参加していたりもしました。 今ハマっていることはゴルフ。大学の友人に手ほどきを受けて始めたのですが、練習でうまくいっても本番は思い通りにならない場面が多いです。ある意味『運』的な要素もあったり、自分との戦いみたいなところが自分に合っていると感じます。プレーする中で、自分の得手不得手や状態を把握してマネジメントしていく部分だったり、常にメンタルを整えないと結果に直結する辺りは経営にも通じると思いますし、ある意味人生の縮図とも似ている気がします。
座右の銘や好きな言葉はありますか?
経営の神様として有名な松下幸之助の「現状維持は後退の始まり」やディズニーランドの生みの親ウォルトディズニーの「ディズニーランドはいつまでも未完成である。現状維持では後退するばかりである」は、ここ数年心に置いている言葉ですね。 個人としても組織としても、現状維持を意識した時点で成長も変化も止まると思っています。「まだまだこんなもんじゃない。もっとできる」という向上心を常に持っていたいですし、その思いを共有できるような組織でありたいです。 また、これは理事長である父が事あるごとに口にしている言葉なのですが「誰のために 何の為に」という言葉は、何かを決める際には常に頭に浮かんできます。 何か決断を下す際に「園としてどうか」「職員にとってどうか」「子供達にとってどうか」「保護者にとってどうか」「リスクとメリットは何なのか」など、常に多角的な視点から物事を考えるようにしています。
リーダーとして大切にされていることはありますか?
当園の今年度の運営方針でも掲げていますが、3つあります。 まず「現場ファーストであること」。ここでいう現場っていうのは、園児、それから職員保護者、その全てを指しています。 2つ目は「現場の意見や要望、それからアイデアを立場や経験にかかわらず、共有できる環境作り、それを正しく運営に反映できる組織作りをすること」です。 最後に3つ目は「園としても、個人としても、全員が出来る限り、納得感をもって停滞することなく、より良く変化・成長していくこと」。この3つが私が園長として大切にしていることになります。
リーダーとして、また組織として果たすべき使命はどのように考えていますか?
園長としての私の役目は「個々を生かすための環境作り」だと思っています。リーダーとして必要な場面で決断を行い、組織としての成長を促す。そして人間としての魅力も持ち合わせている園長でありたいです。 幼稚園としては、うちの社訓の中にもあるのですが「笑顔で迎え、笑顔で帰す」。私たちは大切な子供たちの命と貴重な時間を預かっています。安心・安全を大前提として、幼稚園という集団生活の場を通して多様な経験をする中で、その心身の発達を助長することが使命です。 今年の当園の運営方針は「みんなで関わり創っていく新たな時代の幼稚園」です。ここ数年、コロナをはじめとする時代の変化の中で、ニューノーマルやSDGSなどの言葉に代表されるように、大きな時代の転換期となっています。時代が変わりゆく中で、ゆたか幼稚園として職員、園児、保護者のために出来ることを一緒に考えて良い環境を作っていきたいです。
一緒に働くスタッフのために力をいれていることは何ですか?
当園では以前から全職員にノートパソコンを配布し、手書きでの書類作成などアナログな業務の削減に努めてきました。ICTシステムを活用し業務の効率化の徹底をすることで、先生方が子どもたちと向き合える時間を増やしています。 定時退勤と持ち帰り作業ゼロを園全体で目指しており、立場や経験に関わらず意見や要望を共有できる、風通しの良い組織であることを心がけています。 福利厚生の部分ですと、年度末に打ち上げ、年末には忘年会などを行い、全職員が交流を図る機会を年に数回設けています。ここ数年はコロナ禍のため中止していますが、職員研修として海外に行くことがあります。今までに、韓国、台湾、マカオ、シンガポール、グアムやフィリピンのセブ島などに行っています。職員同士の親睦を深めるいい機会になっていますよ。
今後のビジョンについてお聞かせください。
厚生労働省の発表では、一人の女性が生涯に産む子供の数を示す出生率が2021年には1.30と6年連続で低下していて、出生率自体も過去最少となっています。 また、平成27年の4月に施行された子ども子育て支援新制度により、0歳児から5歳児を預かる認定こども園という存在が増えたことにより、私たち私立幼稚園は淘汰されつつあります。エリア的に見ても子どもの数に対して保育教育施設の数が多く、その中で生き残るためには時代やニーズに合わせた変化と成長が不可欠です。幼稚園も一般企業と同様に目標を立てて経営すべきだと考えています。 教育のためだけの施設としての幼稚園ではなく、地域に広く根ざしたコミュニティーの場として活用することを視野に入れています。昨今話題にもなりましたが、幼稚園教諭という職業はまだまだ社会的地位が低いです。業務内容に対して給与や待遇が見合っていない現状を 改善できるよう積極的に動いていきたいと考えています。 さらに、業界全体として慢性的な人手不足が続いている中で、教員養成校と各教育施設の双方に改善の余地が大いにあると個人的に感じています。その間に立って幼稚園教育の担い手を増やすことができるような試みをしていきたいです。
教育業界を目指す若い方々へのアドバイスをお願いします。
まずは幼稚園教諭免許取得が必須です。
それに加え、当園では「自ら考え自ら行動できる主体性のある人」「コミュニケーションが取れる協調性のある人」「最後に責任感と向上心のある人」を求める人材として掲げています。
「自ら考え自ら行動できる主体性のある人」とは、主体的に考え行動する力が必要です。仕事内容が伴っていることが前提ですが、個人的には大人しいより少し生意気ぐらいでちょうどいいと思っています。若い先生方の感性と意見を柔軟に取り入れながら、新しい時代の幼稚園を一緒に作っていける人材であることを望みます。
「コミュニケーションが取れる協調性のある人」ですが、幼稚園教諭というのは人との関わりが大切です。子どもたちはもちろん保護者、職員同士において、適切な言葉と表現を用いてしっかりとコミュニケーションが取れることが不可欠です。また、クラス運営は学年や全体で仕事をする場面も多く、協調性を持って仕事ができる姿勢は必須だと思います。
最後に「最後に責任感と向上心のある人」に関しては、入職1年目であっても10年目であっても子どもたちと保護者にとって自身が先生であることに変わりはありません。もちろん、経験に差があるのは当たり前のことで、逆に1年目は1年目にしかない良さがたくさんあると思います。しかし自分の仕事にしっかりと責任を持つということは、経験年数によらず、社会人として当たり前です。子どもたちへの言葉遣い、保護者の対応、記録のつけ方など、現場に出なければ分からないことは入職後にいくらでも伸ばしていけます。正直に言えば、机上の勉強は資格取得のためには必要ですが、実際の現場ではほとんど役に立ちません。学業をおろそかにしていいとは言いませんが、視野を広く持つことは大切です。
実習では限られた園にしか行くことができないと思いますが、県内市内にはたくさんの教育施設があって、それぞれが異なる特色や雰囲気を持っています。限られた現場や経験だけで自分の将来を判断することなく、できるだけたくさんの園を見てほしい。その園の方針や雰囲気に納得して選ぶことが大切ですよ。
若者へのメッセージをお願いします。
皆さんは自由です。そして今後何を選択しても不正解はありません。周りが何と言おうが、自分の人生に正解不正解を決められるのは自分だけです。そして、その答え合わせができるのは選択した時ではなくて、選択を終えてからだいぶ後のことだと思います。
私自身、この職業を選んだことを失敗だと思っている時期もありました。でも、どんな理由であれ選んだのは自分自身。それを失敗のままにしてしまうか、成功に変えられるのかも全て自分次第です。私も志半ばですが、今はこの選択で良かったと思っていますし、最後までそう思えるように努力していきたいと思っています。
思い込みでも逃げでも失敗でも勘違いでも、最終的に自分で選んだことであればそれでいいと思います。人は選択を繰り返して成長していきます。些細なことや大きな失敗でも、その全てが経験となり、自分という人間を形成する糧になります。
だから選んだ結果がどうであれ、人生において意味のない選択はありません。そのためには、今の自分を大切にして思いっきり信じてください。そして、そんな自分を支えてくれている家族や友人に感謝の気持ちを忘れないでください。
結局のところ人は一人では生きていけません。自分を信じ、周りへの感謝を忘れずにいれば、どんな道に行ってもそこを正解にすることはできると思います。
※こちらのインタビューは 2022年08月12日 に行われました。
学校法人桜が丘学園 ゆたか幼稚園
インタビュー動画※別ウィンドウが開きます。